パートIII 新内鑑賞会 令和5年6月25日
新内協会理事長 鶴賀若狭掾
上野本牧亭と常連客
上野本牧亭の灯が消えて久しい。上野広小路近くに講談の定席として作られた小さな演芸場でしたが、新内も定席のように使用していた。私達の年代は若い頃は本牧亭に育てられて来ました。
初めの建物が昭和四七年に改築され広くなり、二階に売店も設置されて「いわちゃん」がこわい顔で切り盛りしていた声、木戸番の小柄な名物おじさんも目に浮かびます。
たくさんの思い出が残っていますが、中でも印象深いのが常連客でした。何処の流派の演奏会にも聞きに来ていた無流派籍です。新内の麻薬にどっぷりとつかり、新内を飯に掛けても喰いたいという新内通のうるさ方で耳も大変に肥えている。
その常連はやもりのように壁に寄りかかって座り舞台は観ずにまっすぐ前を観て、胡坐をかき腕組みして聞いている。飲める人は日本酒の瓶が置いてある。下手で面白く無い時は寝ていたのかも…。でも聞かせ処では手も入り掛け声も入ったものです。気取りのない粋な通の連中が高座を飾っていたのでしょう。怖い新内ファンでしたが、新内を育てた貴重な存在でした。
本牧亭のような高座と客席が一体化した、暖かい雰囲気の新内コミュニティ会場が欲しいものです。
新内も義太夫(江戸)もそのように江戸庶民に愛されてきた琴線に触れる素浄瑠璃演奏です。
媚びることなく品よく粋で艶っぽい新内を語っていきたいものです