新内横丁の調べから(29)

海外演奏旅行(18)情熱の国 スペイン公演

人間国宝鶴賀流十一代目家元 鶴賀若狭掾

カタルーニャ州独立問題で揺れるスペインへ20数年振りに出掛けた。
スペインの歴史は世界でも稀有な変遷変化に富んだ国の一つである。120万年以前の人類の痕跡があり、北部には3万5千年前のアルタミラ洞窟壁画の遺跡もある。また多くの民族に依って侵攻され占領され目めまぐるしい領土の歴史が繰り返されて来た。特にイスラムによる永い支配が今日のスペインに多大な影響を残していて興味深い国である。

出演者が舞台をセッティングする

今回は紛争中バルセロナではなく首都マドリードでの公演となった。 新内3名、日舞1名、八王子車人形3名とギタリスト一名の計8名の構成で、演目は新内「蘭蝶」、舞踊「広重八景」、車人形「弥次喜多」でこれは海外公演の定番。それに今回はギター演奏が加わった。
羽田空港出発しフランクフルトでトランジット、5時間待ちでマドリード着、ホテルに入ったのは一時半頃で直ぐ寝た。明朝ホテルの窓からプラド美術館の向いの教会の尖塔の上から朝陽が上るのが見えて神々しい。
2日目は会場でリハーサル。劇場はアテネオ・ド・マドリード。中世の建物の中にあり素敵な雰囲気がある。ホテルから徒歩5分で行けて誠に有り難い。会場の舞台は簡素な設計であり、持ち込んだ幕や道具の設営には苦労した。車人形の演者は馴れたもので手際よく仕込んで行く。現地のスタッフが感心し驚嘆していたのが印象的であった。

アンコール曲をスペイン語で唄う

国内でも海外でも公演に際して一般的には、出演演者(芸人)以外に照明、音響、大道具方、付き人等のスタッフが必ずセットである。歌舞伎や芝居ではかなり大がかりな員数が必要となる。然し我等の舞台にはいつも最小限度の人間の構成で賄うので、演者もスタッフの1員である。今迄に廻った各地での公演も殆どそうして来たものであった。
そうして当日を迎えた。350名余の小屋で開演前に満席となり、かなりの人をお断りしたと聞く。一回公演では誠に勿体ないと皆さんの感想であった。
一曲目は素浄瑠璃の「蘭蝶」二曲目が日本舞踊「広重八景」で美しい舞台を見せた。この二曲とも日本語で語るが、プログラムに載せた解説と、舞台に立っての司会者の簡単な説明のみであったが、大方理解したようであった。
三曲目は日本人のギタリストによる演奏。フラメンコギターとは違うクラシック曲で喜ばれた。
次が車人形の新内芝居「弥次喜多」で、私はセリフの殆どをスペイン語で語った。喜劇でもあり観客は大いに笑った。特に芝居は内容が判らないと面白くはない。 今回はカーテンコール曲を用意して行った。先ずギター伴奏で私が「荒城の月」を日本語とスペイン語で唄う。

アンコールで車人形とギタリストのフラメンコ

それに合わせて花柳貴比さんが日舞の衣裳の侭でフラメンコ的に踊った。これが今回一番の大喝采であった。
また車人形は日本から持持参したフラメンコ人形で、ギターのカルメンの曲に合わせて踊りを披露しこれも喜ばれた。
これが両国の親善と理解を深める文化交流であると確信した。
最後に日本の手締めで幕となる。駐スペイン日本大使ご夫妻も立ち上がって喜んで戴いた。
滞在中は連日快晴のうちに大成功の公演であった。
企画公演して頂いた㈱ID様に心から感謝申し上げる次第である。
今号迄、世界30数カ国での公演を重ねて来た思い出を振り返りつつ、若楽貴重な体験談を書き綴ってきた。紙面の関係で詳しく掲載出来得なかったが、今回を以って海外演奏旅行編は終了。
次回からは新内浄瑠璃の事や、芸の諺の様な事を書きたいと思う。

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